豆腐百珍について

 豆腐百珍は、1782年・江戸時代に、著者は醒狂道人何必醇(篆刻家の曽谷学川か)、版元は大阪藤屋善七により刊行された、日本で最も古典的かつ広い領域を網羅している豆腐料理に関する書物である。豆腐の様々な食べ方が1冊にまとめられたこの本は現代でいうレシピ本であり、基本となる料理は初版の『豆腐百珍』に記載されている100品とされる。紹介されている料理は、尋常品・通品・佳品・奇品・妙品・絶品の6つの等級に分かれている。著者が料理人ではないからこそ、取り上げる食材を一品に絞り100のレシピを格付けするという内容は新しいスタイルであり、当時の多くの人々が関心を寄せた。

 最初は大阪で刊行され、のちに大阪・京都・東京の三都版として刊行された。初版本が好評だったため続編も多数発行され、続編も大人気だった。またヒットすることを予想してか、本の奥付には続編の広告が記されている。掲載されている豆腐料理の多くは、田楽やうどんの形状をしたものなどといった現代では珍しいアレンジや、1日中煮込むなど調理に手間のかかるメニューが多いことが特徴的である。このことから、豆腐料理が庶民に広く浸透した江戸時代において、当時の人々が試行錯誤を繰り返し様々な工夫を施しながら、「豆腐」を楽しんでいたことが伺える。

背景

 私たち図書館学生スタッフららすたは、毎日よく食べている豆腐が、江戸時代から今とは異なる調理法で食べられていたことを知り興味をもった。豆腐は女性人気が高い食材のひとつである。高品質なたんぱく、ミネラル、カルシウムが豊富に含まれ、骨粗鬆症の予防や動脈硬化のリスクを軽減する役割がある。そこで、実際に江戸時代の豆腐料理を再現し、現代で食べられている豆腐料理との比較を行なった。100品の中から特に人気のもの、見栄えが美しいもの、今の時代でも食べられているものを厳選し、多少アレンジして再現した。

 また、『豆腐百珍』は、人気の書物のため幾度となく増し刷りされてきたが、本学では比較的状態のいいものを所蔵している。『豆腐百珍』は初版本と、再販本、及び続編、またその後に出版された飯百珍、甘藷百珍、柚珍秘密箱、鯛百珍料理秘密箱など、複数の百珍本を所蔵している。その点を活かし、高精細デジタル顕微鏡を用いて、豆腐百珍初版本の紙の特性や再販本・柚(ゆう)珍(ちん)秘密箱(ひみつばこ)との違いを観察した。その後、観察結果より百珍ものがどのように広まり、どのような人に好まれたのかを考察した。

 

現代の調理法に合わせた再現レシピ   

十六 金砂豆腐(尋常品)

金砂豆腐金砂豆腐

材料

 木綿豆腐 1/2丁  卵白 2個分  ゆで卵(黄身のみ) 4個分 調味料  砂糖 5g  

 濃口醤油 10ml  塩 小さじ1/4

作り方

 ①重しをして水気を切った豆腐を摺り鉢で十分に摺り、卵白と塩を加え、なめらかになるまで摺る。

 ②流し缶に1センチほどの厚さにのばす。

 ③裏ごしした卵黄に砂糖を加えて混ぜる。②の上に黄身をのせ、こぼれないように軽く押さえる。

 ④蒸し器の湯気が出てから15~20分間蒸しあげ、冷めてから色紙形に切る。

金砂豆腐作成中2024煮込み中2024

再現・試食した感想

 蒸す時間の他に、固ゆで卵を作る時間や豆腐をすり潰す時間もあり、かなり時間がかかった。 卵を裏ごしする作業が楽しかった。出来上がった料理は見た目が綺麗で、豆腐に白身を混ぜ、蒸したことにより パサつきはなく、ふわふわした食感だった。また豆腐と卵のみなので、やさしくあっさりした味わいであった。

三四 やっこ豆腐(通品)

絹ごし豆腐奴豆腐

材料

 豆腐(絹でも木綿でも可)  お好みで薬味  (葱、生姜、大根おろし、茗荷など)

 調味料  お好みで醤油やポン酢

作り方

 ①絹ごし豆腐は食べやすい大きさに切り、冷水にさらしておく。

 ②器に冷水を入れて①の豆腐を入れて盛る。

 ③別の器には薬味を盛って、好きな調理料を添える。

再現・試食した感想

 シンプルな味なので様々な調味料、薬味と楽しめた。 氷と一緒に盛り付けたため、ひんやりとしていて夏に調度良い。 見た目も涼しい。作る際も難しい工程はなく、簡単なのであまり時間をかけずにできた。

百 真のうどん豆腐

うどん豆腐うどん2024

材料

 絹ごし豆腐  割り醤油 (出し汁4・醤油1・酒1(今回は白だしで代用))

 薬味 (おろし大根、唐辛子の粉、葱、陳皮など)

作り方

 ①豆腐はうどん状に切る。

  (ところてんの突き出し先の網を絹糸でこしらえ、 お湯の中へ向けて突き出すやり方もある)

 ②白だしを水で割り、ひと煮立ちさせる。醤油などで好みの味に調味する。

 ③水を張った鍋に切った豆腐を入れ、茹でる(1分ほど)。

 ④茹でたら器に取り、かけ汁をかける。

 ⑤お好みで薬味を載せて完成

  *レシピではつけ麺やぶっかけにしているものもあったが、今回はかけうどんの状態で提供した。

再現・試食した感想

 絹ごし豆腐を使用したため調理でうどん状に切る際にかなり崩れやすく、苦労した。 食べる時には意外にも崩れず、箸でつまんで食べることができた。ゆでたことにより多少の強度がついたと思われる。しかしあくまでも豆腐なので、うどんのように すすることはできなかった。 味もしっかりと豆腐で、調整したうどんの汁との相性が良かった。

             

高精細デジタル顕微鏡

 実践女子大学では、文部科学省私立大学研究ブランディング事業に採択された「源氏物研究の学際的・国際的拠点形成」の一環として、源氏物語写本の高精細デジタル顕微鏡による観察が行われている。

 そこで今回の研究では、事業のプロジェクト・リーダーを務められた実践女子大学図書館長の佐藤悟先生にご指導いただき、高精細デジタル顕微鏡を用いて、豆腐百珍の初版本および再販本、柚珍秘密箱を観察した。また、観察結果より百珍ものがどのように広まりどのような人に好まれたのかを考察した。

 高精細デジタル顕微鏡による画像は、斜めからの照射により表面構造の詳細な観察が可能なリング片射と、光を真上から照射し、反射光にて対象物を観察することで反射率の高い素材の観察が可能な同軸落射を用いて、深度合成により生成した。

  Ⅰ 豆腐百珍初版本・序文の観察

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画像1豆腐百珍初版本 リング片射 ✖700 2D      画像2豆腐百珍初版本 同軸落射 ✖700 3D

 画像1および画像2より、当時のリサイクル紙特有である墨粒(黒い箇所)が、繊維の層の内側に存在しない(表層にある墨粒は刷る際に飛んだと思われる)。また、繊維の間に米粉の塊(丸い形をしたデンプン)がみられることから、上質な紙が使用されていたことがわかる。

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画像3豆腐百珍再販本 リング片射 ✖700 2D      画像4豆腐百珍再販本 同軸落射 ✖700 3D

画像3(特に画面中央下部)より、でん粉粒に特有である黒い十字状の暗線(偏光十字)がみられる(同軸落射でのみ観察可能)。そのことからも、繊維の間にある粒が米粉であることがわかる。

豆腐百珍初版本・再販本および柚珍秘密箱の観察と比較

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画像5柚珍秘密箱 リング片射 ✖700 2D         画像6柚珍秘密箱 同軸落射 ✖700 3D

画像1・画像5・画像7より、繊維が減少せず、むしろ増加している。一般的に、本が増刷される場合、利益率を増加させるために紙の質が下がる。しかしながら、百珍ものの本は時代の進みと共に、上質な紙を使用するようになっている。

画像9 画像10

画像9豆腐百珍 初版本 表紙 リング片射 ×700 2D 画像10豆腐百珍 初版本 表紙 リング片射 ×700 2D

画像11 画像11 豆腐百珍初版本 表紙

画像9、画像11より、豆腐百珍の表紙は、木綿豆腐の表面に似ている布目の模様をしている。材質は、楮(こうぞ)と米粉が含まれている布目紙で、高級で質の良いものである。

画像12 画像12 柚珍秘密箱 表紙

画像13 画像14

画像13柚珍秘密箱 表紙 リング反射 ×700 2D      画像14柚珍秘密箱 表紙 リング反射 ×700 3D

 一方、画像12、画像13より、柚珍秘密箱の表紙は、柚子のような黄色と水に流れるもみじの模様をしており、柚子と柚子の旬である秋が表現されている。材質は、蠟紙のようなツルツルした材質で、こちらも高級かつ質が高いものである。

Ⅲ 観察結果より考察されること

 豆腐百珍は百珍ものの元祖であり、最初期ではファン層が定まっていなかった。 しかしながら、リサイクル紙で本にするのを嫌ったため、上質な紙を使用した のではないか。(自分が頑張って集めた豆腐の知識の集大成といえる本を、 リサイクル紙では作りたくないであろう。)  そして、その特徴的な内容が、コレクションを目的とした購入層や富裕層に 刺さり、そのファン層に合わせて、紙の質の維持・向上や遊び心のある表紙へ と繋がったのではないかと考察する。

 

今後の予定

 2024年11月9日(土)、10日(日)  第68回常磐祭

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