お茶の水女子大学E-bookサービスは、お茶大の教職員および学生による研究・教育の成果物(学術書)をISBNを付与したE-book(PDF)としてインターネットに無料公開することを目的とし、2012年にスタートしました。
サービス開始から10年以上が経過した現在では、リポジトリも普及し、オープンサイエンスやデータ駆動型研究の推進を求める政策が打ち出され、更に、デジタル・ライブラリー推進に向けた検討もなされるなど、研究成果発信を巡る環境が大きく変わっています。
このような状況を踏まえ、本ポスターではE-bookサービスの役割と位置付けを改めて整理するとともに、今後E-bookサービス担当として取り組んでいきたいことをご紹介します。
特徴
- 原則として誰でも自由に閲覧・印刷・ダウンロードができる
- 希望に応じてお茶の水学術事業会が印刷版を有償販売
- E-book契約は「排他的・独占的」なものではなく、著作物の著作権は著者が保持するため、書面による申し出によりいつでも契約解除可能
- 導入済みの機関リポジトリの仕組みを活用することで、新たなシステム運用コストを抑制
- 機関リポジトリの外部連携により、関連する検索サービスへのメタデータ流通が可能に
- 2012年3月にサービスを開始し、2013年に国立大学図書館協会賞を受賞!
対象コンテンツ
- 単行本(学術専門書)に相当する形態と規模を有するもの
- 教科書、博士論文を単行本形態に編集したものも対象
出版実績
15作品、19点
出版までのプロセス
読者はサイト上でPDFを閲覧でき、お茶の水学術事業会のオンデマンド出版より冊子体の注文(有償)も可能です。
著者・附属図書館・お茶の水学術事業会の三者で協働することで、経費や実務の大きな負担増なく出版事業を実現し、商業ベースでは困難と考えられる図書の出版、流通を可能としています。
コンテンツの特性および著者の希望を踏まえながら、多様な成果物を公開するために、1点ずつきめ細やかな対応をしています。
本学の教職員・学生(卒業生・修了生・卒園生を含む)の研究・教育成果著作物のうち、「単行本(学術専門書)に相当する形態と規模を有するもの」、「教科書、博士論文を単行本形態に編集したもの」を対象としていますが、その他にも、本学の多様な研究・教育を表出させる特色ある成果物を公開しています。
以下、いくつかの著作物を抜粋して紹介します。
- 近世日本の儒教思想-山崎闇斎学派を中心として/高島元洋、大久保紀子、長野美香著(2012年3月発行)
近代日本の儒教思想をあらためて考える意図で編集されました。研究編と資料編からなり、合わせて1千ページを超えています。
読みやすさを考慮し、見開きで表示されています。
体重管理について、どのような場面が誘惑場面となるか、具体的にどのような対策が効果的であるかを学習するカード教材です。体重管理をする人だけでなく、そのサポーターとなる指導者にも有用といえます。
読者の利活用促進のため、サイト上では、カードの印刷方法や作成方法を詳細に説明した「カード教材の作成手順」や、「関連ページ」として、このカード教材を題材に作成された雑誌論文へのリンクを掲載しています。
こちらのカード教材が公開されたことにより、他大学の大学院生の方が、栄養指導や論文発表に活用された実績があります。
その他にも、理系教科書『Javaプログラミング入門』や、歌集「古今和歌六帖」の口語訳を備えた『古今和歌六帖全注釈』など、異なる分野や内容、タイプの成果物を閲覧することができます。
本学機関リポジトリ「TeaPot」への移行
実際にコンテンツを登録している機関リポジトリ「お茶の水女子大学教育・研究成果コレクション:TeaPot」(JAIRO Cloud WEKO3)にE-bookサービスのWebサイトを移行する予定です。Webサイト、コンテンツともにTeaPotで公開することで、本学の研究・教育成果著作物の一覧性を高めます。
即時オープンアクセス化支援
2025年度新公募分から、学術論文等の即時オープンアクセス(以下「OA」という)が義務化される方向で検討されています。(「論文等のオープンアクセスについて(論文とりまとめ)」(2023年5月25日 内閣府)より。)TeaPotが学術論文のグリーンOAの受け皿となることだけでなく、単行本に相当する著作を公開できることを本学研究者に周知し、即時OA化を支援します。
オープンサイエンス時代におけるE-bookサービスの役割と位置付け
お茶の水女子大学では、E-bookサービス(本学研究者の著作の公開)、学術雑誌(本学が発行した雑誌の目次の公開)、TeaPot(研究成果プラットフォーム)を展開していますが、コンテンツ自体はTeaPotにありWebサイトは別に存在するなど、それぞれの役割が曖昧になってきています。即時OA化支援等に向けてE-bookサービスを広く周知するためにも、役割と位置付けを下の図のとおり明確にし、オープンサイエンス推進の一翼を担うサービスであることをアピールします。
TeaPotとの違いは以下のとおりです。
- オリジナルな学術書をボーンデジタルで出版。(TeaPotは紙媒体をデジタル化したものや他の媒体により出版されたコンテンツを含む。)
- E-bookサービス運営委員会による審議を経て、一定の質が保証されたコンテンツを出版。(TeaPotの公開手順に審査は設けられていない。)
令和5年1月に「オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方検討部会」で取りまとめられた「審議のまとめ」において、大学図書館は、2030年度を目途に「デジタル・ライブラリー」を実現するものと位置付けられています。(「「2030デジタル・ライブラリー」推進に関する検討会の設置について」(令和5年4月4日 文部科学省研究振興局)より。)「新しい「デジタル・ライブラリー」の実現に向けて検討すべき課題」(令和5年6月19日「2030デジタル・ライブラリー」推進に関する検討会)の中に、「(1)教育・研究支援機能、新たなサービス」の理念として「専門書等の電子書籍化が遅れている領域(商業的流通がなじまない)の雑誌論文、図書等のデジタル化・オープン化を担う。」との項目があることから、この方向性にE-bookサービスは沿うものと考えられます。本学では、このような動向も踏まえながら、今後もE-bookサービスを進めてまいります。