書架におけるBL本の割合・配置と違和感の関係:VR書架による実験から

木間礼子、髙嶋かなえ、髙山みのり、山中友紀子、河内ひより、唐津日陽、秋葉桃子、片山ふみ、野口康人**

聖徳大学 文学部 図書館情報コース

**聖徳大学 短期大学部 図書館・ITコース

 

目次

1. 着想の経緯とリサーチクエスチョン

2. 先行研究と本研究の位置づけ

3. 研究方法

3.1 書架のデザイン

3.2 実験用の書架の種類

3.3 実験環境

3.4 プレ実験

 3.5 本実験

3.5.1 事前説明

3.5.2 事後インタビュー

4. 実験結果

4.1 違和感を覚えた箇所

 4.2 配架方法による意識

5.  考察とまとめ

参考文献

謝辞

役割分担

 

1. 着想の経緯とリサーチクエスチョン

本研究は、堺市立図書館で収集提供されていたBL(ボーイズラブ)図書に対し、匿名の一市民(以下、匿名市民)とその市民に賛同する市議らから廃棄要求があり、約5500冊のBL図書が開架から除去された出来事の経緯から課題設定をしている。堺市立図書館では、1990年ごろから、リクエストによりBL図書を収集提供していたが、紛失が多いことから書庫で管理していた。その後、職員減に伴い、貸し出し希望が多く書庫から出納する時間がとれないことから、一部開架にて提供していた[1]。つまり、匿名市民は、開架書架で提供されて いる多くの資料の中からBL本に気付き、抗議したことになる。このことから、筆者らは「BL本の割合が書架のどの程度を占めると人びとは違和感を覚えるのか」という純粋な疑問をもった。

そこで、書架における配置によって注視時間が異なるという先行研究の知見の観点を加え、本研究のリサーチクエスチョンを次のように設定した。

 

BL本が書架一連のうちどのくらいの割合を占めると人々は違和感を覚えるのか、また、どの位置だと、より違和感を覚えるのか

 

 本研究の目的は上記リサーチクエスチョンの答えをみつけることである。ここでいう違和感とは、「各人が思い描く公立図書館の蔵書群らしくないと感じること」と定義して進める。

 

2. 先行研究と本研究の位置づけ

 書架配置と情報行動や滞在時間などについて検討する研究は多い。なかでも本研究の目的にもっとも近いのは、書架における資料の配置とブラウジングに着目した佐藤翔らの研究[2]であるが、佐藤らの研究では、人びとがどのように書架で視線を動かすのかはわかるが、そのときに人びとがどのような意識をもつのかには踏み込んでいない。本研究は、人びとが配架された書架を見る際に抱く感情に着目する点で新規性がある。

 

 

3. 研究方法

 本研究の目的を達成させる手っ取り早い方法は、公立図書館の開架書架を借りて、BL図書の割合を変えて実験することになるが、一時的にでも開架書架の収容能力が落ちることや人びとが違和感を覚える可能性がある図書を利用した実験、収集方針に合致しないかもしれない資料の排架は公的な機関として協力しづらいだろうことが予想される。またBL図書の割合を変化させる作業は一定の時間がかかるため、同じ利用者が来館中に異なる割合の書架を確認することはほぼ不可能である。以上より実際の書架を利用した実験は実現不可能と判断した。そこで、VR空間に書架を設置し、疑似的にその書架をブラウジングしてもらうことにより、実験を行うことにした。本研究で使用するVR用ヘッドマンとディスプレイ(以下、HMD)はMeta Quest 2である。また、VR用のアプリケーションを作成するために、Unityを使用する。

 

3.1 書架のデザイン

 通常、書架は、幅90cm~100cmほどを一単位(1連)とする。1連には、6~7段の棚が設けられる。保存図書館に関する調査報告書では大学図書館の場合、1棚25冊(1書架6段で150冊)を採用しているが、公共図書館の場合は専門書が大学図書館より少ないため、1棚30~40冊と推定される。

 実際にHMDから見た場合、6段以上あると、書架がやや埋まって見える、背表紙の文字が見づらいという難があった。伊藤伊、キハラ、金剛などのカタログでは、6段を基本としながら、開架スペース用の書架として4~7段は共通して展開しており、実際の利用例もみられることから(キハラのカタログなど)、本研究では5段を採用することとした。これにより書架が視線に対して自然に把握でき、背表紙の文字も確認できる状態となった。

デザインされた書架は、収容冊数全書籍数150冊となった。この書架に図書の背の画像を入れ込むことにより、実験用の書架が完成する。

図1

図1:実験用書架制作手順(イメージ)

 

3.2 実験用の書架の種類

BL図書を混ぜる割合は、10%(BL図書15冊)、25%(BL図書37.5冊)、40%(BL図書60冊)の3パターンとした。位置については、水平位置はあまり関係なく、垂直位置が重要であり、4段書架だと一番上段、5段書架だと最上段から二番目が一番注視されることが先行研究で明らかにされている。また、4段書架だと4段目が、5段書架の場合は5段目は注視時間が著しく低下することも指摘されている。これより、4、5段目は注視時間が短いため、一般小説しか置かず、実験対象段を1~3段目と設定した。つまり、BL図書が混ざるのは、1~3段目となる。

実験に使用するBL図書および、一般小説(近代文学)は、大学近隣の新古書店にて入手した。予算に制限があったため、比較的安価のものから選出した。恣意的にならないよう、筆者ら9名で著者名「あ行」から「わ行」までにばらけて選定にあたった。

実際の視界の様子を図2に示す。

ず2

図2:実際の視界の一例

 

実験用の書架は6パターン用意する。割合について確認するための3パタン(1~3段にBL図書を散らしたパターン)と、配置を変更した3パターン(1段から3段の各段にBL図書を固めたパターン)である。割合について確認するための3パタンーは、すでにのべたように、10%(BL図書15冊)、25%(BL図書37.5冊)、40%(BL図書60冊)の3種類を1~3段にランダムに散らした書架である。配置については、配置のみの影響を確認したいため、40%(BL図書60冊)を1段目に固めた場合、2段目に固めた場合、3段目に固めた場合の3種類を設定する。1段に固めた場合であっても、3冊以上BL本が並ぶと、割合よりもBL本の塊としての影響がでると考え、3冊以上は並ばないように配慮した。

小説はすべて著者名順に配置し、明らかにBLレーベルとわかる背表紙のものはいれないようにした。これは、背表紙の雰囲気や並び順などに違和感が向かないようにするためである。これによって、タイトルと背表紙以外の影響を極力受けないように配慮した。しかし、注視時間が著しく下がると指摘されている4、5段目は、ほぼ見られないと判断し、労力削減のため同様の図書を同様の順番で並べた。

 

3.3 実験環境

 HMDを被った実験協力者はVR空間内の目の前に映る書棚を自由に閲覧できる。HMDはケーブル等が繋がれていないため、実験協力者はしゃがんだり、背伸びをしたり、左右前後に移動することが可能である。図4に実験時の実験協力者の様子を示す。書架の位置や高さはHMDの初期位置と相対的に決まるため可変であるが、実験協力者はコントローラーをもたず、操作しない。ただ目の前に現れる書架を自由に眺めるのみとした。

 

実験空間

図3:実験空間

 

ようす

図4:実験協力者の様子

 

実験時の視界の様子は以下のリンクより確認できる。

https://youtu.be/-qUHlYxZnXc

 

3.4 プレ実験

 2024年10月2日、聖徳大学に在籍する3名の学生に対してプレ調査を実施した。その結果、以下の点が課題となった。

  • 眼鏡ユーザはHMDを装着できず、眼鏡をはずして装着すると視力の影響で書架をみることができない
  • 注視時間がほぼないと見込んでいた4、5段目に注視し、同じ書籍が並んでいることに違和感を覚える事例があり、実験対象段とした1~3段目に注意が行かない

 以上より、裸眼、もしくは、コンタクト使用者のみを協力者として募ること、複本がある、並び方については、考慮しないことなどを事前説明にいれることとした。

 

3.5 本実験

実験は以下のように進める。実験についての説明と同意を得た後、次の順番で、2分ずつ画像を提示する。

  •  P1散らした1パタン目(10%)
  •  P2散らした2パタン目(25%)
  •  P3散らした3パタン目(40%)
  •  P4固め3パタン目(40%)三段
  •  P5固め3パタン目(40%)二段

⑥ P6固め3パタン目(40%)最上段

 

順番はBL図書に気付きにくい順とし、ランダムにBL図書が配置されたパタンの後、段ごとに固めたパタンを提示することで、割合と配置のどちらが影響を与えるのかを探れるようにした。協力者はHMDを装着しながら、気づいたことを自由に発言しながら実験に参加する。違和感についての発言があった時点でその違和感についてどのようなものか確認しながらすすめ、BL図書と気づいた時点で、実験を終了し、詳細なインタビューを実施する。

 

3.5.1 事前説明

 実験前に以下の点を説明する。

  • あなたの思い描く公共図書館の書架をイメージしてください。
  • いろいろなジャンルの日本の小説が並ぶ書架を6パタン用意しています。図書館書架らしくないなど、違和感を覚えた時点、つまり、「あなたが思い描く図書館の蔵書群らしくないと思った時点」(ポジティブに違っても、ネガティブに違ってもかまいません)で、教えてください。HMD装着中に自由に思いついたことをご発言いただいてかまいません。最後に、5~10分程度インタビューをさせていただきます。
  • ご協力いただけますか?(必ず確認する)
  • それでは、調査を始めます。なるべく注目してほしいのは1~3段目になります。「違和感」には、同じ本がある、並び方などの観点は含めません。
  • タイトルがよく見えない場合は、しばらく注視するとピントがあうので、ゆっくりご覧ください。
  • 1パタンにつき、最大2分提示します。
  • もし、具合が悪くなった場合などは調査を中断できます。

 

3.5.2 事後インタビュー

 事後インタビューは基本的に、違和感の詳細、違和感の原因、BL図書を公共図書館で提供することについて、属性など(性別、年齢、普段の図書館利用頻度、図書館で本を手に取る際に重視すること)を確認する。最後まで違和感を抱かない場合は、BL図書だと気づいていつつ、図書館にあってもおかしくないものとしてスルーしたのか、ただ単に気づかなかったのかについても確認する。

 

(1)P1~p3で違和感を覚えた場合

 

  • どのような違和感を感じましたか

(変なタイトルがあったなど→それはどのようなタイトルですか?)

 

  • 書架のどこに注目しましたか?

背表紙

タイトル

著者名

上記の複合

その他

 

  • あなたが感じた気持ちは次のうちどれに近いですか

ネガティブな感情

ポジティブな感情

 

  • ネガティブな場合:その感情は具体的にどのような感情に近いですか

ネガティブ例

  不快

  嫌悪感

  など

 

  • ポジティブな場合:その感情は具体的にどのような感情に近いですか

  ポジティブ例:

面白い

   読んでみたいと思う本があった

 

  • それはどのような理由からですか

書架に並んでいる背表紙の雰囲気(色・柄)

書架に並んでいる本のタイトル

著者名

その他

 

  • 最初に公共図書館の書架を思い描いていただいたのですが、今回の違和感は、思い描いた図書館と差があったということになると思うのですが、だとするとどのような差だったのか、いいかたをかえると、どのように図書館らしくないと感じたのか教えていただけませんか

 

  • 今回、ボーイズラブの小説を割合を変えて何パタンかみていただきました。〇〇さんは〇%の時点で違和感を感じられたのですが、BL図書が並んでいたということを聞いて、どのような感想をお持ちになりましたか。

 

  • 普段からBLコンテンツに触れられますか?

 

  • BL図書が表紙が見えるような形で配架していた場合、また印象は変わる可能性がありますが、その場合、あなたが抱く印象は、変わる可能性がありますか?(今の感情がより強くなる場合も含めてきく)

 

→フェイスシートへ

 

(2)P4~P5で気づいた場合

  • 書架のどこに注目しましたか?

背表紙

タイトル

著者名

上記の複合

その他

 

  • あなたが感じた気持ちは次のうちどれに近いですか

ネガティブな感情

ポジティブな感情

 

  • ネガティブな場合:その感情は具体的にどのような感情に近いですか

ネガティブ例

  不快

  嫌悪感

  など

 

  • ポジティブな場合:その感情は具体的にどのような感情に近いですか

  ポジティブ例:

面白い

   読んでみたいと思う本があった

 

  • それはどのような理由からですか

書架に並んでいる背表紙の雰囲気(色・柄)

書架に並んでいる本のタイトル

著者名

その他

 

  • 最初に公共図書館の書架を思い描いていただいたのですが、今回の違和感は、思い描いた図書館と差があったということになると思うのですが、だとするとどのような差だったのか、いいかたをかえると、どのような図書館を思い描いていて、どのような点で図書館らしくないと感じたのか教えていただけませんか

 

  • 今回、ボーイズラブの小説を割合を変えて何パタンかみていただきました。〇〇さんは〇%の時点で違和感を感じられたのですが、BL図書が並んでいたということを聞いて、どのような感想をお持ちになりましたか。

 

  • 普段からBLコンテンツに触れられますか?

 

  • BL図書が表紙が見えるような形で配架していた場合、また印象は変わる可能性がありますが、その場合、あなたが抱く印象は、変わる可能性がありますか?(今の感情がより強くなる場合も含めてきく)

→フェイスシートへ

 

(3)P6で違和感を覚えなかった場合

 

  • 割合をかえてBL本を配置していたのですが、気づきましたか?

 気付いた

 気付かなかった

 

【気付いた場合】

  • 図書館にあってもおかしくないものとしてスルーしたか、ただ単に気付かなかっただけかおしえてください

 

  • 普段からBLコンテンツに触れられますか?

 

  • BL図書についてどのようなイメージを持っておられますか?

 

  • 今回違和感がなかったということは、BL図書が図書館にあることについてネガティブな感情はお持ちでないということでよいですか?ご自身がこれまで利用してきた公共図書館にはBL図書がありましたか?一般的にはネガティブな感情がわく人が多いようですが、どうしてそのように思われないのか、教えてください。

 

  • BL図書が表紙が見えるような形で配架していた場合、また印象は変わる可能性がありますが、その場合、あなたが抱く印象は、変わる可能性がありますか?(今の感情がより強くなる場合も含めてきく)

 

【気付いていなかった場合】

  • 今回、ボーイズラブの小説を割合を変えて何パタンかみていただきました。普段からBLコンテンツに触れられますか?

 

  • BL図書についてどのようなイメージを持っておられますか?

 

  • 公共図書館をイメージした書架にBL本があったと聞いてどのように思いましたか

ネガティブな感情

ポジティブな感情

 

  • どのような感情だったかより詳しく教えてください

 

  • BL図書が表紙が見えるような形で配架していた場合、また印象は変わる可能性がありますが、その場合、あなたが抱く印象は、変わる可能性がありますか?(今の感情がより強くなる場合も含めてきく)

 

共通:フェイスシート

  • あなたの性別を教えて下さい

男性・女性・その他

 

  • あなたの年齢を教えてください

 10代、20代、30代、40代、50代、60代、70代

 

  • 普段図書館(ここでいう図書館は公立図書館と大学図書館の両方を含みます)を、どのぐらい利用しますか

ほとんど利用しない

週に1回

週に2,3回

月に1回

月に2、3階

半年に1回

1年に1回

ほとんどいかない

  など、本人の尺度で聞いて大丈夫。

 

  • 図書館で本を手にとるときの第一印象はどこにありますか(どこを重視してその本を手に取りますか)

 

4. 実験結果

 実験は、2024年10月9日と10月16日に実施した。聖徳大学の学生5名(仮名:A~E)が協力した。

 

4.1 違和感を覚えた箇所

協力者のほとんどが、P1やP2といった比較的早い段階(散らしたパターン10%から25%)で違和感を覚えている。BL図書と気づく協力者が多かったのは、P3(散らしたパターン40%)である。早い段階で気づいた要因は、普段からBLに接している協力者が多かったことが影響している可能性があるが、普段からBL図書を読んでいてもネガティブに思う事例(B)もみられた。また、普段BL図書を読まないCは違和感を覚えていなかった。

実験時のそれぞれの発言は表1参照。

 

表1:実験結果

協力者

違和感を覚えた箇所と

発言

BL図書と気づいた箇所と

発言 

違和感の

種類

普段の

BL観賞歴

A

P1「いかがわしい本がある」

P3「BLっぽいタイトルがある」

ポジティブ

あり

B

P2「BL本が増えている」

P1(P2に対する発言から推測)

ネガティブ

あり

C

最後まで違和感なし

P3(のちのインタビューで発覚)

違和感なし

なし

D

P2「小説と漫画が混ざっている」 

P3「タイトルがBLマンガみたい」 

ポジティブ 

あり

E

P2「官能に近い小説がある」

 

ポジティブ

あり(たまに)

 

4.1 違和感の詳細

 事後インタビューで詳細を確認した際の発言を表2にまとめた。BやEは違和感は一般小説にBL図書が混じっているということについての違和感であった。複数の協力者(B、C、D)で専用のコーナーを作る案が提示されており、一般小説に混じった配架は好ましくないと考えられていることがわかった。

AやDは公立図書館で提供されることについてポジティブに評価しつつ、Aは実際に借りる際にBL図書を借りていることが他人にばれる不安の気持ちを抱いている。

 

表2:事後インタビュー

協力者

BL図書や違和感についての詳細

A

買わないので、図書館で読めるのはうれしい。ただ自動貸し出し機なら借りるが、カウンタで職員に手渡しで借りるのはNG。

B

ミステリーなどの本にBLがまざっている。分けたほうが良い。自分自身は気にならないが他人がみたら不快に感じるかもしれないと不安になった。

C

BL図書があると気づいていたが、違和感に感じなかった。自分では読まないが友人が好きで書店でみたことがあり、背表紙のデザインがBL文庫のものだと思った。

D

いろいろなジャンルがあることは良いことだと思う。BL作品特有の単語やタイトル、背表紙の配色で気づいた。漫画だと思ったが小説だった。

E

官能的な本があったので、驚いたが、否定的な気持ちではない。官能的な本はコーナー分けされていると思ったけど、一般書と混じっていたのが変に感じた。BLはあってもいいと思うが、内容が過激なものもあるので、線引きが必要。

 

4.2 配架方法による意識

 

 実験は背表紙のみで行ったが、事後インタビューでは、仮に面出しされていた場合に、意識は変わるかどうかについて確認している。その時の回答が表3である。

 

表3:面出しされていたと仮定した場合の意識

面出しされていたと仮定した場合の意識

過激な表紙であれば、手に取っているところを誰かにみられたくない。

過激な表紙が多い印象なので、びっくりする。人目を気にしやすくなるのではないか。これはBLだけでなく、TLにもいえる。

ネガティブな気持ちが強くなると思う。

好まない人にとっては良くない。専用のコーナーがあったほうが良い。

ネガティブに寄ってしまうと思う

 

配架方法が面出しに変わった場合、ほぼ全員がネガティブな感情が芽生えると回答しており、BL図書のイラストに対しては抵抗をもっていると考えられる。

 

5.  考察とまとめ

本研究のRQは「BL図書が書架一連のうちどのくらいの割合を占めると人びとは違和感を覚えるのか、また、どの位置だと、より違和感を覚えるのか」であった。本研究では、開発に時間がかかり、本実験に十分な時間を割くことがかなわなかった。これにより協力者の数が少なくなっている。また20代女性に限定された回答のため、このRQへの回答は、正式の回答とはならない。今後量的調査による仮説検証の必要性を認識したうえで、本研究で生成された仮説をRQの仮回答とする。本研究で生成された仮説は以下の通りである。

 

BL図書に対して読書経験を持っている場合、一連につきBL図書の割合が早ければ10%、遅くとも25%になった時点で違和感を覚える。書架の何段目にあるかという影響は少ないが、一般小説と混ざることによって違和感が増幅する可能性がある。BL図書に対する読書経験がない場合、BL図書であると気づいてもそれが違和感にはつながらない。

 

 また、本研究で得られた結果は、併行して進めた研究「日本の公立図書館におけるBL図書の収集提供に対する人びとの意識」(08番のポスター)[3]の結果と共通する部分がある。たとえば、「BLコンテンツの鑑賞経験をもつ人では、鑑賞数が少ない人ほど公立図書館におけるBL図書を許容する傾向があり、鑑賞数が多い人ほど公立図書館におけるBL図書を許容しない傾向がある」という結果は、本研究の「BL図書読者が、収集提供についてポジティブな意見を示す一方で、誰かが不快に思う可能性を懸念したり、配架方法を限定するなどしてファン以外に不快感を与えないように配慮しようとする傾向」と親和性がある。

 今後は上記仮説を検証しつつ、BLというジャンルがもつ繊細な部分(BLファン層がファンでない人びとへの影響をおもんぱかったり、自衛の意識をもつ部分)に考慮しながら、協力者を増やし、引き続き、人びとの意識を探っていきたい。

 

参考文献

  1. 日本図書館協会図書館の自由委員会編. 図書館の自由ニューズレター集成, 3 2006-2010. 日本図書館協会, 2006, p.353
  2. 佐藤翔, 伊藤 弘道. 図書の書架上の位置が利用者の注視時間に与える影響. 日本図書館情報学会誌. 2020, 66(2), p.55-68.
  3. 片山ふみほか. “日本の公立図書館におけるBL図書の収集提供に対する人びとの意識”. ポスター08. パシフィコ横浜, 20241105/70, 図書館総合展. 2024.

 

謝辞

 実験にご協力くださったみなさまに心より感謝申し上げます。

 

役割分担(CRediT rolesに基づく)

Conceptualization:木間礼子、髙嶋かなえ、髙山みのり、山中友紀子、唐津日陽、秋葉桃子、片山ふみ野口康人

Data curation:木間礼子、山中友紀子、髙嶋かなえ、髙山みのり

Investigation:木間礼子、髙嶋かなえ、髙山みのり、山中友紀子、野口康人

Software:木間礼子、髙嶋かなえ、髙山みのり、山中友紀子、野口康人

Visualization:髙山みのり(ポスターデザイン)、野口康人(デモビデオ制作、視界画像の抽出)

Methodology:片山ふみ、野口康人

Project administration:片山ふみ

Supervision:野口康人

Writing – original draft:片山ふみ(3.3節以外)、野口康人(3.3節)

Writing – review & editing:野口康人、片山ふみ

対象
どなたでも
イベントの有無
無し
担当者
片山ふみ
電話
047-365-1111
メールアドレス
katayama@wa.seitoku.ac.jp
FAX
047-363-1401