日本におけるDQSH:読み聞かせを通じた多様性理解の一形態としての可能性

聖徳大学 図書館情報コース 片山ゼミ : 朝妻七海・塩川日菜・柴田綾子・杉田叶笑・田中瑠璃愛・千葉衣玖弓・長友文音・古山陽野・山本美音・渡辺初菜・片山ふみ


1. はじめに
1.1 研究背景
 近年、多様性、公正性、包摂性を促進する活動の一環として、ドラァグクイーン(D .Q.)が子どもたちに絵本の読み聞かせを行うイベント「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー(Drag Queen Story Hour)(以下、DQSH)」が注目を集めている。DQSHは2015年、米国サンフランシスコで始まり、その後、図書館等の公共的な場を中心として全米各地へと広がった。このイベントは、子どもたちに多様なジェンダー表現やアイデンティティの存在を示し、偏見や差別のない社会の形成を目的としている。
 こうした動きは国際的にも広がりを見せており、日本においても2018年からDQSHの実施が報告されるようになった。しかしながら、諸外国に比べて公共図書館における実施例は非常に少ないのが現状である。

1.2 本研究の目的
 
本研究では、日本におけるDQSHの現状と公共図書館におけるDQSH実施に対する課題を明らかにしたうえで、今後の図書館サービスとしての可能性について考察することを目的とする

1.3 語句の定義
1.3.1 DQSHとは
 DQSHは、ドラァグクイーンが子ども達にむけて、絵本などの子ども向けの本を読むイベントである。この活動は2015年に、当時非営利団体RADAR Productionsのエグゼクティブディレクターだった作家のミシェル・ティーによって読書と多様性の促進を目的に考案された。多くは図書館、学校、書店、その他のコミュニティスペースといった公共の場で開催されてきている。
 現在では、ドラァグクイーンのみならず、ドラァグキング、ドラァグプリンス、ドラァグプリンセスなど多様な表現やアイデンティティも含めたドラァグ・ストーリー・アワー(DSH)という名称で定着している[1]。また、Google検索や新聞記事を検索するとDQSHのほかドラァグクイーン・ストーリー・タイム(DQST)、やドラァグ・ストーリー・タイム(DST)と呼ばれることもある(厳密には、DSH、DQSHとDGST、DQSTは別団体である)。
 本研究では、DQSHを統一的な表現として用いることとする。その理由は、これまでの実施事例から日本においてはDQSH表記の認知度が高いと考えられるため、加えて、DQSH東京を調査対象にするため、である。
 なお、先行研究等の引用では、それぞれが該当文献内で使用されている用語で表記する。

1.3.2  ドラァグとは
 ドラァグとは、人々が衣装をまとって、しばしば高度に様式化された方法でパフォーマンスを行うエンターテインメントの一種である。この用語は19世紀の英国演劇スラングとして生まれ、男性が着用する女性服を指すために用いられた。現在このようなパフォーマンスは、ジェンダー化された行動やスタイルを強調することが多いが、ドラァグはパフォーマンススタイルであり、個々人のセクシャリティやジェンダーを指すものではない[2]。
 一般的なパフォーマーのタイプとしては、女性らしさを誇張するドラァグクイーンと、男性らしさを誇張するドラァグキングが挙げられる[3]。佐藤は、「ドラァグ・クイーンとは、過剰な女装をおこないクラブやバーなどでユーモラスなショーをするゲイ男性のこと」[4]としているが、上述したように、ドラァグと個々人のセクシャリティは異なるものであり、ドラァグパフォーマーの中にはゲイやクィアな人だけでなくストレートの人もいることが指摘されている[5]。

1.4 先行研究と本研究の位置づけ
 DQSHについての学術研究は少なくとも国内では見つからない。DQSHの担い手である、DQへのインタビュー記事[6]や、実践事例の報告[7][8]、新聞記事[9]がいくつかある程度である。これは日本における実践の少なさや認知度の低さが影響している可能性があると推察される[10]。実施例の多い海外の研究に着目すると、メディア報道の傾向、図書館員の意識、読まれる絵本の内容分析、効果に着目した研究が存在する。

1.4.1  メディア報道の傾向
 Kermode & Phillips(2025)[11]は、オーストラリアにおける DST (Drag Story Time) を含む性やジェンダー多様性に関する言説が、メディアでどのように扱われているのかを明らかにしようとした。DST はコミュニティ・イベントとして、ジェンダー多様性の肯定を軽やかなユーモアを交えて表現する機会となっており、クィアな子ども・家族を可視化し、「価値ある存在」と認められる場になる一方で、反対者による「子どもの安全」や「露骨な性的表現」などの懸念がメディアで頻繁に語られ、これがDSTを巡る誤解や恐怖の醸成を生み出していることを指摘している。
 スウェーデンの新聞・報道記事を対象とした研究[12]では、「民主主義」「公共空間としての多様性」「文化政策の包摂性」を擁護する視点も強くある一方で、DSH (Drag Story Hour) をめぐる論争において、「子どもは無垢で保護すべきもの」、「安全・道徳」といったイメージが、DSH に否定的な立場の根拠として用いられていることを指摘している。
 我々が調査したアメリカの新聞記事においてもDQSHは全米各地の図書館、学校、書店などに広がり、多くの家庭に受け入れられる一方で、強い反発や社会的対立も生んでいることが示されていた。特に、宗教的・政治的立場の違いによって、保守派の人々から「子どもへの悪影響」や「不適切な性的表現」といった批判があり[13]、抗議行動、イベントの中止、さらには図書館の閉鎖にまで発展する事例が報告されていた[14]。また図書館職員が心理的負担により離職するケースなどもあった[15]。
 以上のように、DQSHに関する賛成派と反対派による対立は、各国の事例を超えて欧米社会に共通して次のような傾向があるといえる。DQSHは単なるエンターテインメントの枠を超え、教育的・社会的意義を持つ活動として一定の社会的認知を得ている一方で、保守的な価値観との衝突や、政治的・宗教的な反発も招いており、社会的議論の対象ともなっている。

1.4.2  図書館員の意識
 アメリカやカナダにおける公共図書館員への意識に着目し実際に図書館員に対する調査を実施した研究によると、DQSHに成功している図書館は、コミュニティのニーズ分析をし、LGBTQ+関係者との協働や支持を得てプログラム企画をしていること、また、図書館側の管理層の理解と支持が、プログラムを定期的・継続的に行う上でキーとなることが示されている[16]。実施に至らない図書館の主な障壁として、予算・資金の制約、コミュニティの反対、施設側のサポート体制の有無などが指摘されている[17]。

1.4.3 読まれる絵本の内容分析
 米国のDSTイベントで用いられた絵本103冊の内容分析をおこなった研究[18]では、主役キャラクター(主人公)は白人・シスジェンダー・異性愛者・健常者が多いが、脇役キャラクターや背景設定には多様性(人種、身体の状態、性指向・性表現など)の要素が比較的多く含まれている絵本が多いことを明らかにしている。この結果からDSTで読まれる絵本は、一定程度は多様性の問題に配慮されているが、依然として改善の余地があると指摘している。

1.4.4  効果に関する研究
 Keenan, Hら[19]は、DQSHはクィア教育学(性の多様性を理解し、人間や社会をより深く考察する学際的な学問)をパフォーマティブにアプローチするものであり、幼児教育を拡張する効果があると主張する。

1.4.5 本研究の位置づけ
  以上、見てきたように、DQSHの実施が多い諸外国においても、実施においては課題が多いことがわかる。一方で、DQSHは地域社会における「学びと対話の場」としての意義を持ち続けている。図書館は、年齢や人種、性的指向、ジェンダーにかかわらず、誰もが平等にアクセスできる公共空間であり、自由な知へのアクセスと包摂の価値を体現する場でもある。ある当事者は、自身が「Q」であることを図書館を通じて初めて認識し、多様なアイデンティティへの理解が広がったと語っている[20]。
   一般的に日本はLGBTQ+の社会的理解について後進国であるという認識がなされていると考えられるが、、少なくとも歴史的には、男色文化などに照らして日本社会は男性同士の性愛について寛容であるとする見方もあるし[21]、宗教的な寛容性も指摘されている[22]。こうした日本において、DQSHは図書館サービスとして成立しうるのか、本研究では現状と課題を把握することによって考察していきたい。

1.5 研究方法
 本研究では、3つの調査を実施する。1つ目は、DQSHの日本における実施状況を明らかにすることを目的に実施する、DQSH実施者へのインタビュー調査である。2つ目は、日本におけるDQSHでこれまで読まれてきた絵本を把握するための傾向調査である。3つ目は、日本の図書館業界におけるDQSHへの意識を探る目的で実施する図書館員をはじめとする図書館業界関係者へのアンケート調査である。
 なお、3つ目の調査については、2025年度の図書館総合展で実施する。

2. 日本におけるDQSH実施の現状と課題
 
本章は、2025年7月13日(日)にオンラインによって実施したインタビュー調査を軸にDQSHの実施状況と当事者が感じている課題についてまとめる。インタビューを補足するものとして、8月30日(土)に、調査協力者が行ったパフォーマンス(表象文化論学会「セクシュアリティと多様性──ドラァグクイーンによるショー・絵本読み聞かせ・HUGたいそう」)とその後の質疑応答の内容を一部加える。

2.1 調査協力者
 インタビューにはDQSH東京より以下の2名の協力を得た。DQSH東京とは、2018年にDSH(ドラァグ・ストーリー・アワー)の東京チャプターとして公認された組織で、Drag Queen Story Hour TOKYO として始動している。正式名称は、「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー東京 読み聞かせの会」である。1.4で取り上げた先行研究では、DQSTやDSTも同様の活動としてまとめたが、これらとDQSH東京とは異なる組織である。日本での状況の把握にあたってはDQSH東京の実践を知ることが重要だと考えられる。

吉田智子さん
  NY在住のDQSH東京スタッフ。
  これまでの仕事は企業広報・社会貢献活動、非営利団体の プログラム運営、およびピラティス実践、研究活動などから学んだ経験を活かし、健康と人権を大きなテーマとして活動中。(以上、次の文献より引用。マダムボンジュール・ジャンジ・吉田智子・渡辺大輔「インタビュー ドラァグクイーンが子どもたちに絵本の読み聞かせ:ドラァグクイーン・ストーリー・アワーってなんだろう?」『SEXUALITY』no.108,2022-10,p.80-89.)。

Madame Bonjour JohnJ(以下、マダム ボンジュール・ジャンジ)さん】
  ドラァグクイーン/パフォーマンスアーティスト
  https://bonjourjohnj.tokyo/

1990年から舞台に立ち、東京を中心にフランス、ベルリン、ストックホルムなど幅広く活躍。交歓のAll Mix Party「ジューシィー!」(1997-)主宰、HIV陽性者やその周囲の人が書いた手記の朗読や歌によりメッセージを伝える「LivingTogether のど自慢」(2006-2025)の企画・出演など、違いを超えて出会う時空間を創出している。
2022年には国連「UN in Action」シリーズ『Beyond Boundaries: Drag Queen of Tokyo』(『境界を超えてー東京のドラァグクイーン』)https://youtu.be/7L27Mbd12kE に取り上げられ、世界に向けて配信された動画が注目を集める。
多様性の絵本パフォーマンスや、自身が考案したひとりひとりの存在を肯定し合う身体ワークショップを2001年から展開し、2025年書籍「HUGたいそう」(ゆまに書房)を出版。
2005年から、新宿2丁目にあるHIV/エイズ・セクシャルヘルスの情報センター aktaのスタッフとして勤務。2012年にNPO法人化した際に初代理事長・センター長を務めたのち、2025年5月までakta理事を務める。長年にわたりLGBTQ+やHIV陽性者が安心できる場づくりや個別相談、講演など多数行なう。認定カウンセラー。

2.2 組織と実施体制
 DQSH東京は、運営陣4名、「おはなしクイーン」(読み手の呼称)3名の体制で運営されている。「おはなしクイーン」はDQSHの取り組みに積極的なだけでなく、読み聞かせの際の、子どもとのコミュニケーション能力や柔軟な対応力が必要とされる。そのため、クラブ等におけるドラァグクイーンとしてのキャリアを通じて、多様な背景をもつ来場者との対話や交流を重ねてきた経験を有し、対人関係における柔軟性や寛容性が高く、多少の困難や逸脱的状況にも動じない対応力を備えている人物が話し手となる。
 「おはなしクイーン」は事前に、運営陣の一人である幼児教育の専門家から、子どもの成長や認知、安全配慮などに関する研修を受けたうえで実施にあたる。
 これまでに美術館、公共施設(子育て支援施設、保育園、専門学校、人権教育や女性活躍支援施設など)、大使館、企業、商業施設などで実施されており、累計で30回程度の開催実績を持つ。図書館での実施はまだ一例(渋谷区立笹塚こども図書館)にとどまる。

2.3 対象年齢とプログラム構成
 対象は概ね3歳から8歳である。社会的な規範や価値観に縛られる以前の時期に、ドラァグクイーンという非日常的かつ異質な存在と出会い、絵本を媒介として楽しい時間を共有するという経験は、子どもたちにとって、日常とは異なる価値観や生き方に触れる機会となり、社会の枠組みの中で困難に直面した際の心理的な支えや視野の広がりとして機能しうることが期待されている。
 クイーンによる、絵本の読み聞かせ(3冊程度)に手遊びなどを組み合わせたプログラムと、子どもたち自身が工作するプログラムが設定され、実施されている。参加人数は1回のプログラムにつき20名、全体の時間は1時間程度である。
 選書には、一般に定番とされる絵本を通じた導入(子どもたちをリラックスさせ、親近感を形成)、クイーンの個性を活かした作品選択、性の多様性を扱う絵本の導入という3つの軸が存在する。

2.4 実施者の意図と意義
 インタビューからは、以下のような実施者の意図が確認された。
  
子どもに対しては、異なる存在との出会いを通じて、自然に自己肯定感を育み、いじめのない社会につながる基盤を形成したいと考えられていた。そして子どもの環境を規定することになる保護者に対しては、「多様であることは自然なこと」であるとの気づきを促すとともに、子どもと保護者が共に楽しい体験を共有する意義を重視したいと考えられていた。
 これらからは、実践者が単なる読み聞かせを超えて、DQSHを多様性理解の社会的基盤を形成する活動と位置付けている姿勢を読み取ることができる。

2.5 参加者らの反応
 子どもたちからは、「最初は怖いと思ったけど、優しくてよかった」、「純粋に楽しかった」などの反応が印象的だったとのことで、参加した子どもたちは、ありのままにその場を満喫していた様子がうかがえる。また、「○○ちゃんかわいかった」「きれいだった」「ハンバーガーの靴をはいていた」と帰宅してからも話題になったり、衣装に触れたり、質問したりしたこともあったとのことである。これらの現象は、子どもたちが絵本の読み聞かせから得るものに加えて、クイーンという存在そのものからも多くの刺激や学びを受け取っていることを示している。
 
保護者の中には、子どもがどのような反応を示すかについて不安を抱く者もみられるが、実際には、子どもが自然に受け止める様子に安心感を示したり、幼少期から多様な価値観や表現に触れる機会を積極的に設けたいと考えるなど、多様性に対して前向きな姿勢を持つ保護者も少なくない。実際に「クレヨンを使うときに、普段使わないカラフルな色をつかっていておどろいた」、「帰宅後に話題になった」などイベントを通して子ども達が変化している様子を感じているようだ。

 一方で、日本においても反対派は存在し、東京都現代美術館における展覧会「あ、共感とかじゃなくて。」(2023年)の関連事業として、「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー~ドラァグクイーンによるこどものための絵本読み聞かせ~」が企画された際には、SNSを中心に、差別的な批判や暴力的ととれる意見も多く出たという。これをうけ、東京都現代美術館が声明[23]を出し、企画意図と美術館の役割を示したうえで安全に配慮して実施された。

2.6 公共図書館での実施の意義と課題
 公共図書館のような開かれた空間で実施されるプログラムには、事前に参加を申し込んだ利用者のみならず、偶然その場に居合わせた来館者にも影響を及ぼす可能性がある。関心の高い家庭だけでなく、多様な背景をもつ子どもたちにアプローチできる場として意義があると考えられていた。その例として、笹塚こども図書館で実施されたプログラムでは、申込者以外の子どもたちが、一定の距離を保ちながらもその様子を興味深そうに見守っていたという事例が示された。このような偶発的な出会いや接触の機会は、図書館ならではといえるだろう。
  一方で、図書館での実施にはハードルもある。インタビューから得られた課題は、社会的反応と安全性、財政的基盤、その他の3つに大別できる。まず、社会的反応と安全性であるが、2.5で触れた美術館の例のように、ネット上の批判や現地での抗議に対応するためには、子ども・保護者・読み手全員の安全を確保するための体制整備が求められる。
 次に財政的基盤であるが、欧米と異なり、日本では公的支援が乏しく、DQSH東京の自己資金や助成金、依頼先からの謝金に依存している。つまり図書館で実施する際は、図書館側から謝金をもらうか、図書館が有料のイベントとして実施する必要がある。
その他の課題は、公共図書館における実施に限られた課題ではないが、日本の出版社による性の多様性に関する絵本が少ないことも指摘されていた。日本の子どもたちのためには日本の文化を反映した多様性理解の絵本が必要である。

3. 日本におけるDQSHで読まれる絵本の傾向 
 これまでにDQSHで提供されてきた絵本のタイトルを把握することを目的に、DQSH東京のFacebook、Instagram、X(旧Twitter)の報告や挙げられている写真から絵本のリストを作成した。DQSH東京の吉田さんにチェックを受け整理したものを、表1、表2にまとめた。表1は定番のもの、表2は多様性理解につながるテーマをもつ絵本を読まれた回数の多い順に並べたものである。

表1:一般に定番とされる絵本

 順位                       タイトル  回数
  1  はらぺこあおむし       6
  2  だるまちゃんとてんぐちゃん       3
  3  よしおくんがぎゅうにうをこぼしてしまったおはなし       3
  4  みみずのオッサン       2
  5  ま、いっか       2
  6  おおきなかぶ       1
  7  かおかおどんなかお       1
  8  ぐりとぐら       1
  9  タコやん       1
 10  パンダ銭湯       1
 11  へっこきよめさま       1
 12  となりのまじょのマジョンナさん       1

 

表2 :多様性理解をテーマにもつ絵本

 順位                       タイトル  回数
  1  IT'S OKAY TO BE DIFFERENT      12
  2  ピンクはおとこのこのいろ       7
  3  りつとにじのたね       5
  4  たまごちゃん、たびにでる       4
  5  じぶんだけのいろ       4
  6  王さまと王さま       3
  7  わたしはあかねこ       3
  8  からあげビーチ       2
  9  ジュリアンはマーメイド       2
 10  タンタンタンゴはパパふたり       1
 11  くまのトーマスはおんなのこ       1
 12  王子と騎士       1

4.日本におけるDQSHの認知度およびDQSHに対する意識
 日本の図書館業界におけるDQSHへの意識を探る目的で実施する。図書館総合展2025にて会場来場者、オンライン来場者らの意見を収集する。アンケート受付期間は、2025年10月22日~2025年10月31日までとする。
 アンケートへのリンク:https://forms.office.com/r/RBXgnBjSp7

5. 小括
 本研究は、4章の調査を実施中の段階であるため、総合考察とそれに基づく結論は別稿に委ねる。
 3章までの調査を通じて、DQSHは、子どもに対しては自己肯定感を、保護者に対しては多様性への気づきを促す意義ある取り組みである。Drag Queen Story Hour TOKYOのDQSHに対する理念は、すべての人にサービスをするという公共図書館の使命と親和性が高く、また、「ユネスコ公共図書館宣言2022」で強調される社会的包摂の重要性とも合致する。
 一方で、2.6で指摘されたさまざまな課題に加えて、既存のサービスに対する考え方との違いも課題になりうると推察する。たとえば、児童サービスにおける読み聞かせは、質問したり感想を求めたりせず、静かに集中して実施するというというのが日本における従来の形式である。また、読み聞かせを絵画の鑑賞にたとえて、主役は額縁(読み手)ではなく絵本(絵)であり、簡素な額縁ほど物語を際立たせる(松岡享子『えほんのせかいこどものせかい』)と長年認識されてきた。こうした日本における伝統的かつ主流な読み聞かせの考え方やスタイルとDQSHは一線を画すものである。アンケート調査では、現状の図書館業界が、どのような点でDQSHを評価し、どのような点に課題を感じるのかについても注意深く検討していきたい。

6.今後の課題
 現時点での本研究の課題として、先行研究の調査の際に、DQSH、DSH、DQST、DST等を、同様に扱ったことがある。類似するプログラムではあるものの、提供元の組織は異なるため、それぞれの目的の違いにも着目しながらまとめる必要があり、今後の課題としたい。

謝辞
 本研究を進めるにあたり、DQSH東京の吉田智子さんおよびマダム ボンジュール・ジャンジさんに、多大なご協力をいただきました。心から感謝いたします。

役割分担(CRediT rolesに基づく) 
Conceptualization: 朝妻七海、塩川日菜、柴田綾子、杉田叶笑、田中瑠璃愛、千葉衣玖弓、長友文音、古山陽野、山本美音、渡辺初菜、片山ふみ
Data curation:柴田綾子、杉田叶笑、田中瑠璃愛
Investigation: 朝妻七海、柴田綾子、杉田叶笑、田中瑠璃愛、千葉衣玖弓、長友文音、山本美音
Visualization:渡辺初菜(ポスターデザイン)、柴田綾子(ドラフト制作)
Methodology:片山ふみ
Project administration:片山ふみ
Writing – original draft:片山ふみ
Writing – review & editing:片山ふみ、千葉衣玖弓、長友文音、山本美音

注・引用文献

[1] “About: What is Drag Story Hour? ,” Drag Story Hour, https://www.dragstoryhour.org/about, (accessed 2025-10-08).[2] National Center for Transgender Equality. (2017). Understanding drag. https://transequality.org/issues/resources/understanding-drag, (accessed 2025-10-08)
[3] Rupp, L. J., V. Taylor, and E. I. Shapiro. 2010. Drag queens and drag kings: The difference gender makes. Sexualities 13 (3):275–94. doi:10.1177/1363460709352725
[4] 佐藤知久「ドラァグ・クイーンとその身体:合衆国から日本への移転と変容をめぐって」『日本文化人類学会研究大会発表要旨集』2008,p.16.
[5] 「新宿2丁目のドラァグクイーンは、ジェンダー論を学ぶ早大院留学生」『早稲田ウィークリー』2023-04-25. https://www.waseda.jp/inst/weekly/news/2023/04/25/106680/,(参照 2025-10-17)
[6] マダムボンジュール・ジャンジ・吉田智子・渡辺大輔「インタビュー ドラァグクイーンが子どもたちに絵本の読み聞かせ:ドラァグクイーン・ストーリー・アワーってなんだろう?」『SEXUALITY』no.108,2022-10,p.80-89.
[7] 勝部弘樹「多様性を発揮する図書館運営:ドラァグクイーンの読み聞かせ」『Current Awareness Portal』no.398,2020-09-17.https://current.ndl.go.jp/e2300,(参照 2025-10-08).
[8] 渋谷区立図書館「ドラァグクイーンがやってくる おはなし会と工作会」『渋谷区立図書館』2020-01-29.https://www.lib.city.shibuya.tokyo.jp/new-info/2020/01/post-15.html,(参照 2025-10-08). 
[9] 
「性の多様さ、自分の目で 子供に絵本読み聞かせ ドラァグクイーン」『朝日新聞』2020-04-06,朝刊,大阪市内・1地方,19ページ.
[10] 研究に着手した当初はこのように考えていたが、本研究で行ったインタビューを通じて、DQSH東京側は、DQSHのプログラムの意図や内容を正確に伝えることを重視し、テレビや全国紙などからの取材依頼には慎重に対応してきたことがわかった。こうした姿勢が、研究や報道の少なさに一定の影響を及ぼしている可能性も考えられる。
[11] Kermode,Aleasa;Phillips,Louise Gwenneth.“Becoming Un/Silenced: Whose Voices Are Heard in Media Coverage of Gender-Diversity in Australian Schools and Drag Story Time?,”Sage Journals,vol.15,no.1,2025-01-17.https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/20436106241310455,(accessed 2025-10-08).
[12] Engström,Lisa;Carlsson,Hanna;and Hanell,Fredrik.“Drag story hour at public libraries: the reading child and the construction of fear and othering in Swedish cultural policy debate,”emerald insight,vol.80,no.7,2024-05-17.https://www.emerald.com/jd/article/80/7/226/1235688/Drag-story-hour-at-public-libraries-the-reading,(accessed 2025-10-08).
[13] なお、DQSHのプログラムの中で、性行為やそれを示唆する表現などが含まれることは一切ない。
[14] Leland,John.“How a drag queen event that never happened forced a library to shut down,” New York Times,2024-01-05. https://www.proquest.com/newspapers/how-Drag-queen-event-that-never-happened-forced/docview/2910691041/se-2,(accessed 2025-10-08).
[15] Small,Jonathan.“Free market Friday: OSU president in denial,”THE JOURNAL RECORD,2023-12-22.https://www.proquest.com/newspapers/free-market-friday-osu-president-Denial/ docview/2906683233/se-2,(accessed 2025-10-08).

[16] Naidoo,Jamie Campbell.“A Rainbow of Creativity: Exploring Drag Queen Storytimes and Gender Creative Programming in Public Libraries,”ALSC,vol.16,no.4,2018.https://journals.ala.org/index.php/cal/article/view/6896/9282,(accessed 2025-10-08).
[17] Barriage,Sarah;Kitzie,Vanessa;Floegel,Diana;and Oltmann,Shannon M.“Drag Queen Storytimes: Public Library Staff Perceptions and Experiences,” ALSC,vol.19,no.2,2021.https://journals.ala.org/index.php/cal/article/view/7581/10486,(accessed 2025-10-08).

[18] Barriage,Sarah et al.“A Content Analysis of Picture Books Read During Drag Storytimes in Public Libraries,” Public Library Quarterly,vol.44,no.1,2025,p.32-54.
[19] Keenan, H., and L. Miss Hot Mess. 2021. Drag pedagogy: The playful practice of queer imagination in early childhood,Curriculum Inquiry ,vol.50 , no.5, 2020, p.440–61.
[20] Edmondson C. House GOP uses spending bills to pick partisan policy fights. New York Times. Jun 24 2023. Available from: https://www.proquest.com/newspapers/house-gop-uses-spending-bills-pick-partisan/docview/2828959237/se-2.
[21] 江戸時代では武士のみならず庶民の間でも、男同士の性愛は一般的であり、男女の恋愛よりも男性同士の恋愛のほうが高尚であると捉えられていた(佐伯順子『美少年尽くし (平凡社ライブラリー) 』平凡社, 2015)。
[22] 相互に原理的に矛盾するものまで、「無限抱擁」してこれを「平和共存」させる思想的「寛容」の伝統があることを丸山真男が指摘している(丸山真男『日本の思想』岩波書店,1961)。「日本人は宗派に属さないトリプル信仰」であることを指摘する文献も存在する(井上章一ほか 『ミッションスクールになぜ美人が多いのか:日本女子とキリスト教』朝日新聞出版,2018)も存在する。

[23] 「「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー」に関する美術館の見解につきまして」『東京都現代美術館』2023-07-04.https://www.mot-art-museum.jp/news/2023/07/20230630133415/,(参照 2025-10-08).

対象
どなたでも
イベントの有無
無し
担当者
片山ふみ
記入担当者
片山ふみ
電話
047-365-1111
メールアドレス
katayama@wa.seitoku.ac.jp
FAX
047-363-1401