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ヒ素を含む図書は和書にも存在します。図書館の利用者と職員をヒ素から守るために、ヒ素を含む和書について学びましょう。

 

相談受付

ヒ素を含む和書の探し方や管理方法に関するご相談を受け付けます。以下の時間帯にポスターセッション会場にお越しください。予約は不要です。

 

  2025年10月22日(火)14:15-15:15

  2025年10月23日(水)12:00-13:00、14:00-15:00

  2025年10月24日(木)14:30-15:30

 

ヒ素を含む和書

― 図書館に潜む有害物質 ―

近年、ヒ素を含む色材(顔料・染料)が使用された古い図書資料が世界各地の図書館で続々と発見されています。日本の図書館も例外ではなく、ヒ素を含む顔料で着色・彩色された古い和書が見つかっています。利用者・職員をヒ素から守るため、ヒ素を含む和書についての理解を深めましょう。
 

ヒ素を含む顔料と和書

石黄(図i)や鶏冠石(図ii)はヒ素を含む鉱物ですが、顔料として本の表紙や浮世絵に使用されました。特に石黄を原料とする黄色い顔料は人気で、人工的に製造された合成石黄の流通により入手もしやすくなったため、江戸後期・明治期の出版物によく使われました1,2,3


  図i 石黄

  図ii 鶏冠石


表紙全体にヒ素が…

『釈迦八相倭文庫十二編上之巻』(図1)という合巻は、表紙中央の黄色い部分に石黄が使われています。このように表紙の一部だけにヒ素が存在することもありますが、『改正日本地誌略字引』(図2)や『筆算階梯』(図3)のように、表紙全体がヒ素を含む色材で着色されていることもあります。


  図1『釈迦八相倭文庫十二編上之巻』嘉永2年

  図2『改正日本地誌略字引』明治9年

  図3『筆算階梯 四』明治10年

 

地図、錦絵、挿絵にも注意

地図、錦絵、挿絵にも注意が必要です4。『改正明細東京図』(図4)という地図の表紙は、ヒ素を含む顔料で着色されています。また、『婦人教訓鏡 はた織糸繰りの図』(図5)という錦絵は、黄色と緑色の部分にヒ素を含む色材が使用されています。ちりめん本『The Cub's Triumph〔野干の手柄〕』(図6)のように、ヒ素を含む色材が本文挿絵に使われていることもあります。


  図4『改正明細東京図』明治20年

  図5『婦人教訓鏡 はた織糸繰りの図』明治14年

  図6『The Cub’s Triumph〔野干の手柄〕』大正11年、初版明治20年(ちりめん本)

 

ヒ素を含む図書資料の特定

ヒ素を含む本を特定するためには、蛍光X線分析等の科学分析を実施するか、あるいは、ヒ素が検出された図書資料の情報を複数の図書館で共有して教え合う必要があります。現在、国際日本文化研究センター馬場研究室では、ヒ素を含む図書資料の情報を図書館間で共有するためのデータベースを制作しています(2026年公開予定)。

 

 

参考文献

1. Luo, Yanbing, et al., Synthetic arsenic sulfides in Japanese prints of the Meiji period, Heritage Science, (2016) 4:17, 1-6, DOI: https://doi.org/10.1186/s40494-016-0087-0.
2. Zalenski, Stephanie, et al., Natural and synthetic arsenic sulfide pigments in Japanese woodblock prints of the late Edo period, Heritage Science, (2018) 6:32, 1-8, DOI: https://doi.org 10.1186/s40494-018-0195-0.
3. 大和あすか,浮世絵版画における天然および人造石黄の使用事例と流通状況に関する一考察,文化財保存修復学会誌,66,2023, pp.11-29.
4. 馬場幸栄,ヒ素を含む色材が使われた明治時代の図書資料 (Meiji-era Library Materials Containing Arsenic-Based Colorants), 日本農学図書館協議会誌, 219, September 1, 2025, pp.16-23.

 

 

 

ヒ素を含む洋書とその安全対策については、以下をご参照ください。

 

第26回図書館総合展ポスター(2024年)「ヒ素を含む図書の安全対策」は以下URLで公開中。

ヒ素を含む図書の安全対策 サムネイル

https://www.libraryfair.jp/poster/2024/262
 

第25回図書館総合展ポスター(2023年)「古い洋書に含まれるヒ素 その歴史と特徴」は以下URLで公開中。

https://www.libraryfair.jp/poster/2023/153