日本のアザミウマ450余種を詳説

◆微細な昆虫グループを代表するといってもいいのが、アザミウマ類(スリップス類という呼び名も普及している)である。体長およそ1ミリから3ミリで、昭和40年代ころから害虫として知られるようになり、昭和53(1978)年、ミナミキイロアザミウマが九州に侵入定着して俄然有名になった。1988年には、これら害虫としてのアザミウマ類を掲載した『農作物のアザミウマ』-分類から防除まで-(全国農村教育協会)も出版されている。

◆このように、これまでわが国では重要害虫種のアザミウマについては防除上の必要性から情報が広く共有されてきた。もちろんこれは応用昆虫学上大切なことである。しかし、生物の研究およびその発表に関しては、どのようなグループであれ、まず種名を明らかにするという分類学上の知見が求められる。本書に掲載された日本のアザミウマ類がおよそ450余種であることから見て、重要害虫はその種数においてほんの一握りにすぎない。これは何をおいても大きな問題である。例えば、海外からの侵入種が発生した時、そのアザミウマを同定することは、まず第一にやるべきことである。このような時に必要なのは同定に使えるレベルの適切な図鑑と、それを使いこなせる研究者であろう。本書は、アザミウマ全体に対する正しい同定技術の普及を目的に出版されたものである。

◆とはいうものの、体の小さいアザミウマは肉眼レベルでの識別が難しく、正しく同定するにはプレパラートを作成し顕微鏡で観察する必要がある。本書でも、ビジュアルの中心をなすのはプレパラートによる顕微鏡観察像である。各論における種の解説は1種1ページに統一し、1種当り10点程度の細密写真図版を登載、同定のポイントとなる表皮の表面構造や刺毛配列などの微細構造を適確に表現している。さらに本書を最も大きく特徴付けているのが深度合成技術を駆使して撮影された顕微鏡写真である。これまでの図鑑では顕微鏡観察した画像を手書きするのが主流だったが、本書のモノクローム写真は細部を克明に描写しつつ顕微鏡観察特有のソフトな空気感を残したナチュラルでわかりやすい像に仕上がっている。

◆一方で、生時の色彩や形態を正しく把握しておくことも、観察においては大切である。本書のために撮影された189種319点のカラー生態写真が、科・亜科・属の特徴などの基本情報を生き生きと伝えている。

◆各論ではアザミウマ各種の形態、分布、生態を解説し、形態についての英文を併記した。これにより海外の読者はもちろんのこと、アザミウマ研究を志す初学者にとっても大いに有用である。概説では分類、生態、研究史、分布、採集、標本作成といったアザミウマ研究の基礎的な部分について解説している。

 

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昆虫関係者、農業者
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