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フォーラムへのご参加ありがとうございました
概要

フォーラム「こんなときどうする?知的・発達障害のある利用者を図書館へ迎えるためのQ&A」へのご参加ありがとうございました。開催後のアンケートでいただいたご質問を講師の東恩納拓也氏にご回答いただきました。

 

質問への回答


Q.図書館職員の方も神経発達症の方という事例はございますでしょうか?またある場合、実際の困りごとや対処方法の役に立ったことはありますでしょうか?

A.神経発達症は青年期・成人期以降も残存することが多いので、図書館に勤務されている方の中に神経発達症がある方もいると思います。実際に私が神経発達症のある図書館職員の方や施設へ支援したことはありませんが、各特性による困りには以下のような内容が考えられます。

自閉スペクトラム症がある場合
・自分の考えや話を職員や利用者に一方的に話して相手を不快な気持ちにさせてしまう
・本音と建前の区別が苦手で思ったことをそのまま言ってしまう
・社会的関係が分からず、利用者や上司に高圧的に関わってしまう
・人前でカモフラージュして気疲れしてしまう

注意欠如多動症がある場合
・任された仕事を最後までやり遂げられない
・複数の業務を同時にできない
・考えずに言ってしまい、同僚や利用者を傷つけてしまう
・仕事が雑になってしまう

発達性協調運動症がある場合
・仕事道具の整理整頓ができない
・資料を破損してしまう

以上の困りに対する対処法として、具体的に何ができなくて困っているのか、何ができると図書館業務がより良くなるのかを具体的に考えることが重要だと思います。あくまでも神経発達症はその人の特性であり、困りの要因とは限りません。そのため、神経発達症があっても働きやすい業務内容や職場の環境を整えることが重要です。その際に、上記のような神経発達症の各特性を理解しておくとより良い支援につながりやすくなります。


 

Q.障害か悪意かの判断方法はあるか。(特に汚損や無断使用、独り言等)

A.そもそも神経発達症と悪意は同一線上にあるものではないので、神経発達症がある方が悪意のある行動をとると考えないことが重要です。しかし、“なぜそのような行動をするのか”、本人の視点に立って行動の理由を考えることで「特性」によるものなのか、「悪意」によるものなのかを判断しやすくなると思います。暗黙の了解や他者の気持ちの理解が難しい、不注意、手先の不器用さなどによって、つい資料等を破損してしまうことがあるかもしれません。また、職員の注目を獲得したい、目立ちたいといった理由や目的があるかもしれません。そのような場合には、本人に悪気がある訳ではなく、大多数の大人が決めたルールや方法に馴染めていないのだと考えることができます。 いわゆる悪意とは、神経発達症の有無にかかわらず、相手に迷惑をかけたり不快にさせたりすることを目的に故意に行うものであると考えられます。結果として、神経発達症がある方の行動が悪意による行動と周囲から捉えられてしまう状況もあるかもしれませんが、その場合には神経発達症がある方や周囲の環境に行動の背景が隠されていると考えることが重要です。


 

Q.職員も障害か悪意かの判断ができない中、他の利用者にどのように理解を求めれば良いのか。(特に静かな場所を求めて来館する利用者に対して)

A.気になる行動の背景を丁寧に分析し対応するためには時間が必要です。そのため、気になる状況が起こり、神経発達症がある方が関与する場合、悪意によるものでは無いと考えて他の利用者へ対応する必要があります。また、行動の背景をその場で考え対応するためには知識とスキルが必要になるため、基本的にはその場で適切な対応をしようとするよりも、前もって他の利用者に対して「様々な特性の方が利用する」ということを周知しておくような工夫が有効かもしれません。 ただし、状況によっては、神経発達症がある方に、定型発達者の文化を理解してもらうことも必要です。常に神経発達症がある方に合わせた対応(静かな場所で喋ってしまっても許容するなど)をするのではなく、多くの方が快適に利用できるようなルール(ここは静かに利用する場所と決めるなど)を設定し、神経発達症がある方へ説明し適応してもらうことも必要です。


 

Q.障害の疑いのある方へ、まず始めにどうお声かけをすればよいのか

A.神経発達症がない方と同様の声掛けをすると良いと思います。別の質問への回答と重なりますが、神経発達症は障害ではなく、あくまで脳の違いによる特性であるため、基本的な関わりにおいて神経発達症の有無はあまり関係ないと思います。


 

Q.成人の利用者の方で、特定の職員へ業務と関係無く繰り返しコンタクトを求めるような問題があった場合(ご本人から理解が得られない)に、ご家族へ連絡をとるべきかどうか。(例えばその方に恋愛感情がある場合、最もプライベートな内容を家族に知らせることになるのを心配しています)

A.図書館側として、「当該利用者が業務に関係する内容でのみ職員に関わって欲しい」という狙い(目標)があり、その方法として、「家族から当該利用者に図書館職員への関わり方のルールを伝えてもらう」ことが必要と考えられるのであれば、家族へ連絡をとっても良いと思います。 「ご家族へ連絡する」ことは目的ではなく方法であるため、家族へ連絡することでどんな状況になって欲しいのかを考えた上で、家族への連絡の必要性を検討すると良いと思います。また、もし、目的が図書館業務以外のことで職員と関わらずに過ごすことであるのであれば、当該利用者に恋愛感情があるか否かは家族へ伝える必要はないと考えられます。


当フォーラム関連書籍のご紹介

書籍「知的・発達障害のある利用者を図書館へ迎えるためのヒント」

著者/東恩納拓也 出版/埼玉福祉会出版部 判型/A5判 ページ数/37P

読書バリアフリー法の成立以来、公共図書館におけるバリアフリーコーナーの設置は広がり、資料も徐々に充実しつつあります。しかし、実際に知的障害や発達障害を持つ方が来館した場合の、窓口対応のほうについては、まだ議論が少ない状態です。 この書籍では、図書館や障害当事者へのアンケートを基に、現場でよく起こる問題をパターンに分けて分析。作業療法士である著者が、問題の背景や解決策をアドバイスすることで、誰もが快適に利用できる図書館を目指しています。

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